治療に関するQ&A

03当院での「椎間板ヘルニア」の治療について

麻痺で犬が歩けなくなりました。早急な治療が必要でしょうか?

当然です!自分の足と同じように考えてあげてください。

他の病院で「椎間板ヘルニア」であると告げられましたが、手術で削らなければならないのでしょうか?

「椎間板ヘルニア」とよばれる病気を鍼灸で治療させていただいてる私にとって、これは、少々困った質問です。
困った質問でありながら最も多く訊かれ、その多くは手術を望んでいる方からの質問です。

鍼灸派の私は「削らなくてもいいですよ」といつもお答えしますが、一体どれだけの人が信用してくれることでしょう。原始時代にタイムスリップし、原始人に「あなたの住んでいる地球は丸いんだ」と説明するのに似て、一度根付いた先入観を変えるのは容易なことではありません。

何が何でも手術、と考えている方に、手術を受けないよう諫めるようなことは致しておりませんし、仮に手術費が1000万円でも、結果的に100%歩けるようになるのであれば安いほうだし、手術してもよいと思います。
でも、現実はそう甘くはないのです。削って治らなかったために落胆された方、あるいは手術の結果を挽回するためワラをもすがる思いで鍼治療に来院された方を、これまで多く診て来ました。

問題の核心に触れます。

手術をしてはいけない理由は、私が鍼で治せなくなるからではありません。
あなたが、治すのを諦めてしまうからです。私の方の問題ではなく、飼い主さんの問題なのです。

手術を施した後は、手術をしていない場合に比べて治療がより難しくなります。
素晴らしい絵を描くのには真っ白なキャンバスが最適なのと同様、鍼には、メスによる筋肉・神経の損傷のないまっさらな体が最高なのです。

手術を受けた後では、運が悪いと、鍼灸に通う回数が10倍以上増えます。
5回で治るところが、50回を要するといった具合です。

現在(2007年10/1時点)、週1回の鍼治療で、通算の治療回数が110回を数える方(手術経験済みのヘルニアの方)が未だに治療を続けておられます。
賞賛すべきは、その努力を微塵も感じさせないところです。

何度でも申しあげます。手術を受けたばかりに、飼い主さん自身が、長く険しい道のり=鍼治療中心の生活を余儀なくされます。
果たして、あなたは、前述の飼い主さんを見習い、110回も鍼に通い続けることができますか?

関連項目:「すぐに「手術」ですか? ちょっと待ってください!」
関連項目:どのくらいの間隔で治療に通えばよいのですか?

椎間板ヘルニアが早く治る条件は何ですか?

重要な要因の順に、1から10まで並べました。

1.外科手術を受けていないこと。
2.造影剤を投与されていないこと。
3.ステロイドの処方を受けていないこと。
4.画像診断の目的で全身麻酔の処置を受けていないこと。(※1)
5.麻痺が発症した当日、もしくは翌日に治療を開始していること。
6.尾が振れていること。
7.1週間に1回以上、きちんと定期的に鍼治療を受けていること。
8.年齢が若いこと。
9.床に離して、はなし飼いで管理できていること。(※2)
10.短頭飼いであること。

当然、上記項目の逆は、マイナス要因として働きます。

※1 麻痺の病態で全身麻酔を施すと、麻痺した足の血行がさらに悪化するため。
※2 閉じ込めない方が良い本人の自由な運動によりリハビリ効果が得られる為。

鍼治療を受けていても、プールでのリハビリは必要でしょうか?

必要ありません。

なぜなら、当院ではリハビリを全くご指導しなくても完治するからです。
たった1回の鍼灸で完治する仔もいらっしゃいます。
当時入院していたマックスくんも、特別なことはしませんでした。鍼灸の時間以外、寝ていても治るのです。

ただし、手術をお受けになった方は例外です。リハビリ必要の有無について、改めてご相談下さい。

関連項目:回復過程・ケース2(マックスくん : 椎間板ヘルニア)

他の獣医師から「腰に良くないので痩せさせなさい」と言われました。痩せさせるべきでしょうか?

当院において、痩せさせるようには指導しておりません。
逆に「太るように」指導しておりますが、天邪鬼(あまのじゃく)で言っているわけではありません。

理由は簡単です。
太る仔が治るからです。正確に言えば「太れる仔しか治らない」のです。
だから、いつも太らせるように指導しています。適度に太ったところに適正体重があります。

スイムリハビリ(水中リハビリ)では、減量すると体が持ち上がりやすいそうです。しかし、それは重要なことではありません。
なぜなら、体が浮くようになることが最終目標ではないからです。

完璧に疾走できること、それが幸福の終着駅です。目先の利益には飛びつかないで下さい。
寝ていても治る仔たちは、リハビリの努力をすることなく、太って筋肉隆々となり、治っていくのです。

ちなみに、マックスくんは入院初日に6.3kgだった体重が、退院時は8.8kgとなり、より力強さを増しました。
ちょうど60kgの成人男性なら、84kgに相当します。

ただし、太れない仔あるいは痩せたままの仔は、ご家庭の努力だけで太らせることが出来ません。
太らせたいときは、専門家(鍼灸師)の意見を仰いでください。

関連項目:回復過程・ケース2(マックスくん : 椎間板ヘルニア)

椎間板ヘルニアで「グレード4」と言われました。「グレード」について教えてください。

鍼灸治療において「グレード」は関係ないことを前置きした上で、まずは教科書的な知識から入らせていただきます。

グレード1 … 疼痛 神経学的異常は認められない
グレード2 … 運動失調 固有位置感覚の異常 不全対麻痺
グレード3 … 重篤な不全対麻痺(立位もしくは歩行不能)
グレード4 … 対麻痺 排尿・排泄能の消失 表皮の感覚消失
グレード5 … 対麻痺 失禁 深部痛覚の消失

見ての通り、病態が悪いほどグレードの数字は高くなります。
概ね、大学病院の先生 はグレード3になったら手術を薦めているようです。

私がグレードを無視する根拠について述べましょう。
それは、入院治療の開始時点でグレード5だったマックスくんが、少し立てるようになっている仔をアッという間に追い抜いて退院していく、それと類似した数多くの症例が存在することです。

前者と後者との違いは、一言で言えば、手術を受けたか否かの差です。結局、「グレード」は現在の病態を評価してはいても、治療や予後については何ら役に立ちません。二ヶ月もの間様子を見ているグレード1の仔の飼い主さんにお会いしましたが、その方はステロイドが効かずに困っていました。グレード1だから治りやすく、グレード5だから治らないということではないのです。

グレード5で来院した仔に1回の鍼灸を施したところ、一週間後には歩行しているなどということをよく経験します。体重130kg(グレード1)の小兵力士に対して、体重200kg(グレード5)の巨漢力士とすると少し理解しやすいでしょうか。この場合、体重はあくまでも分類分けの基準であり、お相撲さんの絶対的な強さを表しているものではありません。

ヘルニアの仔が治癒力を十分有していれば、グレード5であっても私の鍼で早く治ります。
1ヶ月経過したグレード5でも、簡単に治してしまうところを、とくとご覧下さい。

関連項目:回復過程・ケース2(マックスくん : 椎間板ヘルニア)

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